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閑話休題 一昨日の夜、恒例のベートーヴェンのピアノソナタ32番をプログラムに含むコンサートに足を運びました。 ピアニストは野尻多佳子さん。いつもながら私は存じ上げませんでした。場所は紀尾井ホール。 紀尾井ホールといえば私の中ではサントリーホールよりも格上のイメージがあり、アンドラーシュ・シフやぺーター・レーゼル、ファジル・サイなどの 32番の名演奏を聴いてきた場所だったので、今回もピアニストの知名度はなくともそれなりに期待していました。
結論から書くと、32番はまったくの期待外れ。今まで聴いてきた32番の実演では最悪だった、と断言できてしまう演奏と感じました。 アリエッタの前半変奏部がリピート無しの簡略版だったことも驚きでしたが、そもそも一つ一つのフレーズが雑というか曖昧で、 変奏途中の間合いの工夫も特になく、浮かび上がってくるはずの旋律がミスタッチ(かなり多い)や低音部との混濁して中途半端に聞こえます。 アリエッタ独特の海底散歩のような中盤から、トリルとともにシーララの主題が浮かび上がってきて曲中最大のクライマックスを迎える展開も 中盤がうるさすぎて構成にメリハリがなく、トリルが背景にあるからこそ生きるシンプルな主題の効果もほとんど生きていませんでした。 果たしてこのベートーヴェンの最後のピアノソナタにどのような姿勢で解釈を行い、修練を積まれたのか疑問が残る演奏でした。
プログラムの最後に演奏される予定だったベートヴェンの32番は、当日、演奏者の都合でシューベルトの小品と順番が入れ替えられました。 本来なら、消えゆくようなラストの32番は演奏会の最後がふさわしく、演奏家によっては、この曲の後に弾ける曲はないとして アンコールの演奏も拒否するピアニストも多い中、不思議に思いましたが、この32番の演奏の出来を聴き、 おそらく演奏者本人も「これでトリを務めるのは無理」と判断したのではないか、と思いました。
演奏を聴きながら、何とかこのピアニストの良いところはどこか、と探そうとしました。 前半のモンポウの小品やシューベルトの小品など、旋律がわかり易くて美しい曲の演奏を気持ちよく弾くのが向いているのではないかと思います。 ただ、次回の演奏会は来年サントリーホール(大)だとか。 年齢にしてはウエディングドレスのようなステージ衣装で登場とか、この実力で紀尾井ホールやサントリーホールでの演奏会ができるとか、 演奏会後、7に〜8人の女性が花束を贈るなど、ずいぶんと環境に恵まれた人だなぁ、と感じられたのも、この人への違和感として印象に残りました。
たぶん私は2度と彼女の演奏会に足を運ぶことはないと思います。 |